電力総研 水 力あれこれ(四 国)
吉野川開発篇下流部開発篇
祖谷川名頃
貞光川穴吹川 松尾川松一・松二
潅漑用水
とはずがたりな掲示板(利 水スレ電 力スレ)

松尾川の水力発電(→松尾川篇名頃篇)

松尾川ダム(→諸元)松尾川第一(→諸元)第二発電所(→諸元)は設立間もない四電が初めて手がけた大規模開発事 業(平面図縦断面図洪水時運転法)。四電の気合いを示すように物凄い量の取水支線を張り巡らせている!(水路罔)
これに気付いた水力発電趣味を始めたばかりの私は度肝を抜かれたものである。よく見ると祖谷川の一連の発電所の最上部施設に見えた名頃ダム(→諸元)名頃発電所(→諸元)もこちらの一部であった。

まずは周辺の現状から
出典:四 国電力
ダム名・取水川名
ダム名・取水川名
貯水量 有 効貯水量 流 域面積
その他・備考(ダム)
事業者:発電所名
最大出力
常時出力
形式
有効落差 使用水量 その他・備考(発電所)
名頃ダ ム
四 ツ小屋谷川
祖谷川 136.7万m3 115.0万m3 28.0km2 1961年竣工 水量比28.85 ‰以下
名頃 1.3MW 0MW ダム水路式・調整池式 47.0m 3.50m3/s [水 力]1961年運開
支水路[小 島谷(第 二小島谷川)(900.1)・与 市谷小 白谷(第二坂瀬川)コ タバ谷赤 枝谷(第一坂瀬川)ウ ツロ谷・[宮 谷]・長 チャレ谷釜 土谷白 井谷]・支水路[セ ト内(瀬戸内)(924.8)・長 谷
祖 谷川(名頃)(903.6)
赤 滝川(899.8)・同 支流(903.3)
霧 谷川(897.3)
落 合谷川(901.8)
九 十九谷(895.9)
鎖 谷川(901.7)・同 支流(911.4)
松尾川ダム 1430万m3 1260万m3 103.0km2 水量比:5.00 ‰
松 尾川第一 20.8MW 11.9MW ダム水路式・貯水池式 382.40m 6.30m3/s [水 力] 1953年運開,
井内谷川支流, 松 尾川第一放流水
松尾川第二 21.4MW 13.0MW 水路式・貯水池式 392.77m 6.30m3/s [水 力]1953年運開,


43.5MW 24.9MW




放水効率…松尾第一・第二6.79MW/(m3/s)+名頃0.37=7.16MW/(m3/s)

今,名頃ダム直下にある水を考える。冒頭の地図にもある様に二通りの経路がありうる。
この水1m3/sが祖谷川を下ると祖谷6.3/3.7MW・高野5.2/8.8MW・一宇8.7/9.46MW・出合9.3/9.461MW・三縄 7.0/14.6MW・更に池田5.0/62MW,合計して4.76MWを発電することが出来る。
一方松尾川ダムへの導水路を下ると松尾川第一20.8/6.3MWと松尾川第二21.4/6.3MW,合計して6.70MWを発電することが出来る。
詰まり,水は松尾川側に 流した方が効率的である。

この辺から,1961年運開の名頃ダムは,松尾川 ダムの取水口が名頃ダムの逆調整池になってる様であり,1953年運開の松尾川第一・第二発電所の補助システムを構成(名頃発電所で発電した水は松 尾川の方へ引っ張ってく凄いネットワークの起点になっている)って感じである。名頃ダムの増強は基本的に松尾川方面への増強に直結すると考 えて良かろう。

また松尾川第一と第二が完全にピーク量電源に振ってるイメージだったけど常時発電が結構高く常時発 電も結構しているようで,フル稼働と云っても良い状況である。
なかなか頼もしい存在ではないか。
祖谷山中に張り巡らされた導水路が実現する流域面積103km2に対して使用水量が 6.30m3/sと小さめなので結構余裕があるようだ。1960年と云 う割りと高度成長初期の開発でまだ稼働率を高めに取る時代の設計思想が感じられる。水力発電の調整力が重視される昨今 では水量倍増させて常時出力減らしても良さそう。2台に増やした水車・発電機はシステムの冗長性をも担保してくれるに違いない。この場合
発電所名
出力
常時出力
水量
水車
有効落差 導水路
松尾川第一 20,800kW→41,600kW[+20.8MW] 11,900kW→減少へ 6.30m3/s→12.60m3/s ペルトン 21300kW×1台→2台 382.40m(取水位:950m)
松尾川第二 21.400kW→42.800kW[+21.4MW]
13,000kW→減少へ 6.30m3/s→12.60m3/s ペルトン 21900kW×1台→2台 392.77m(放水位:71.5m)
こんな感じになる。
これでも十分な気がするが,未だ放水位が70m超である。どうせならもう一寸延ばして下流で放水しても良いかも。その際に貞光と絡めても良い。この辺で検討してみる。

と云う事で本線筋の2ダム3発電所のスペックを改めて確認:


名頃(なごろ)ダム[水力][便覧]           
河川     吉野川水系祖谷川
目的     P
 総貯水容量:136.7万m3    有効貯水容量:121.3万m3
満水位標高:950.00m
流域:
ダム事業者     四国電力(株)
着手/竣工     1960/1961
堤高:37m、堤頂長:119.4m


四国電力株式会社 名頃発電所[水力]        
運開:1961.3
ダム水路式・調整池式
認可最大出力:1,300kW     常時出力:0kW
最大使用水量:3.50m3/s
有効落差:47.00m
水車:出力1360kW×1台
導水路:総延長1000.2m    放水路:延長247.745m
流域面積:28.0km2
取水:祖谷川[名頃ダム]+四ツ小屋谷川(950.0m)
放水:祖谷川(901.36))
備考:世界で最初に立軸デリア(可変翼斜流)水車が設置された水力発電所[wiki]

こちら参照


松尾川(まつおがわ)ダム[便覧][水力]          
目的/型式     P(→松一松二6.30m3/s)/重力式コンクリート
堤高/堤頂長/堤体積     67m/195m/169千m3
流域面積/湛水面積     103km2 ( 直接:26km2 間接:77km2 ) /59ha
ダム事業者     四国電力(株)
着手/竣工     1951/1953
総貯水容量:1,430万m3    有効貯水容量:1,260万m3
湛水面積: 0.59平方キロメートル
取水:祖谷川(名頃)[場 所]+田 之内谷川赤 滝谷川(赤滝川)第 一ゴウロ谷川霧 谷川(切谷川)友 松谷川?丸 見谷川な べら谷川九 十九谷(落合谷川)+(落 合谷川支流)[G](鎖 谷川支流)鎖 谷川お そごえ谷川奥 ノ井谷川第 二小島谷川第 三坂瀬川ウ ツロ谷川第 一坂瀬川長 谷川

四国電力(株) 松尾川第一発電所[水 力]        
運開:1953.10
ダム水路式・貯水池式
認可最大出力:20,800kW     常時出力:11,900kW (57.2%)←結構でかい!
最大使用水量:6.30m3/s
有効落差:382.40m  (▲16.1m)
水車:ペルトン水車 最大出力21300kW×1台
導水路:総延長:30,587.7m 主導水路:1,905.6m
取水:松尾川[松尾川ダム](882.0m) 取水:26箇所 ←すげえ数w 18箇所(ダム入れて19 箇所)は確認
放水:松尾川第二発電所、井内谷川支流(483.5m)
備考:日本で初めて自動周波数調整装置(AFC)を導入した(1954)水力発電所


四国電力(株) 松尾川第二発電所[水 力]          
運開:1953.10
水路式・貯水池式
認可最大出力:21.400kW     常時出力:13,000kW[60.7%]←松一とずれてるのは何故?
最大使用水量:6.30m3/s
有効落差:392.77m
水車:横軸ペルトン水車 最大出力21900kW×1台
導水路:総延長5571.0m
水圧鉄管:延長1030.43m×1条
流域面積:105.3平方キロメートル
取水:松尾川第一発電所、井内谷川支流(480.0m)
放水:吉野川(71.5m)
備考:日本で初めて自動周波数調整装置(AFC)を導入した(1954)水力発電所・また吉野川の増水時には放水口が塞がれてしまうが排出する装置も装備 しているようである。

22.2

22.2

比較検討
やはり貯留量に対する使用水量が小さめではなかろうか?



堤高
湛水面積
貯留量
流域
水量
発電所
出力
時間容量
松尾川ダム
P
松尾川
67m
59ha
1,260万m3 103.7km2
6.3m3/s
松一
松二
20.8MW
21.4MW
555.5h
永瀬ダム
FNP
物部川
87m
208ha 4,147.0万m3 295.2km2 30.0m3/s 永瀬 22.8MW
伊尾木川ダム
P
伊尾木川
22.8m
11ha
32.7万m3
86.1km2
7.0m3/s
伊尾木川
7.7MW
12.7h(半日とちょい)
魚梁瀬ダム
P
奈半利川
115m
291ha
7,250.0万m3
117.1km2
50m3/s
魚梁瀬
36.0MW
402h(16日と9時間ちょい)
久木ダム
P

28m
29ha
134.0万m3
146.3km2
45.0m3/s
二又
72.1MW

平鍋ダム
P

38m
35ha
98.0万m3
233km2
40.0m3/s
長山
37.0MW

殿 山ダム
P
日置川
64.5m
137ha
2,544.6万m3
294km2
26.0m3/s
殿山 15.0MW
271h
七 川ダム
P
古座川
58.5m
179ha
2,540.0万m3
102km2
16.0m3/s


441h
二川ダム
FP
有田川
 67.4m
86ha
1,920.0万m3
228.8km2
15.0m3/s

355h

松尾川発電所の開発に関して日立が論文を公開している。なかなか参考になる。松一・松二の双子発電所は発電機も基本的に同一仕様だし,今は祖谷・名頃に達 して四国の剣山山中 に引水路を張り巡らせてる印象があるけど当初は小島谷方面(と短い長谷方面)のみだったようだ。


"四国電力株式会社納 松尾川第一及び第二発電所用水車及び交流発電機に就いて"          
井原一男・伊藤晃二・佐藤文雄 『日立評論』1953/7
http://www.hitachihyoron.com/jp/pdf/1953/07/1953_07_01.pdf
〔T〕緒言
>第一及び第二発電所では常時使用落差が375m,391mと異なるが同一仕様の主機を使用した。

>第二発電所に於ては廃棄損失落差を少くする方法として,洪水時放水面を押し下げて運転する特殊運転方法をとつた。

>軽負荷の効率を高くする方法として,負荷1/2以下になると片側の水車のみを運転する高能率運転方法を採用した。

(A)計画
>運転は豊水,渇水期を通じて尖頭負荷運転とし基準負荷は4,000〜5,000kWである。

(B)水車の仕様
>機器は共通設計のものとし,発電機の両側に水車をおく二輪四軸噴射型ペルトン水車

建設設計図

計画平面図            


水路縦断面図        


洪水時運転法             

>第二発電所では洪水時放水路水位が水車室床面より上昇するためケーシング内の自動水面押し下げ刀利が設けられている。

>放水位が上昇してA水位に至ると空気圧縮機が自動起動し,空気槽,減圧弁を経て圧縮空気がケーシング内に送られ,ケーシング上部の通気バルブは閉 ぢる。ケーシング中の過剰空気は空気溢流管より室外に排出される。

>本発電所の最大洪水位は水車中心より6.7m,洪水時の運転のケーシング中放水位(A水位)は水車中心より3mである。

イマイチ判らないけどどうも水車に水を宛てて動かす部分は覆われていてその覆いをケーシングと云い,ケーシング内に圧縮空気を満たすことで水車内へ洪水の 侵入を防ぐ機構?

こんなんで水車を動かした後の水が水圧に負けずに放流できるのか。

洪水は平常時より6.7m以上高くても大丈夫そうに読めたけどこの理解でOK?

導水路罔       
結局現状ではこんな感じに増殖していることになる!凄いねぇ〜♪



<祖谷川・松尾川>
松尾川第一に直結する松尾川ダムへの導水路は徹底的網羅的でこれ以上の余地はなさそう。
上で確認した様に松尾システムへの補給がメインの任務の名頃ダムで考える。
とはいえ名頃ダムの有効貯水量は115万m3と割と小さめなので引っ張って来る分こまめに使わないといけない。

また地形図の標高や放水口の標高を有効落差(47m)と見比べてみると発電所は地下にあってダム標高と放水口標高の差を有効落差として結構フルに活用して いるようである。
水 色線の様に平 尾谷の辺の砂防ダムから発電所へ取水したら良いかも。まあ平尾谷は松一・松二用の水量としては利用できてるけど。

今は松尾川ダムへ直送している赤 滝川笹 平谷川から一旦,名頃ダム湖へ送水し て発電してから松尾川へ送っても良いかもとは思う。両者が合流する辺りでも良いが一寸高さが足りぬ。砂防ダム建設して土砂貯めつつ標高上げても良いかも知 れないけど。問 題は一回名頃ダムに貯めて好きな時に使える様にするメリットと一回名頃発電所で発電できると云うメリットの和を水路建設工事と保守作業のコストが上回れる か否かで ある。(両沢への建設時期が名頃建設より後か先かは不明であるが,設計思想としては松尾川ダムに送水するのを優先していると云えよう。)

名頃ダムに引っ張ってこれる領域を見ても趣味始めた初期の私が発見した平尾谷川や赤滝川・笹平谷川だが,狭かったり(平尾谷)遠かったり(赤滝川・笹平谷 川)する上に結局より多くの貯水量を持つ松尾川に流れ込むと云うオチ迄付いてあんま効果的ではない。。平尾谷川導水は効果は小さいけどまあ投資は少なくて 済みそうでやっても良い気がする。
平尾谷川は発電所直結で貯めれる訳ではないがその分名頃ダムの水量を節約出来る。現地レポ含め詳しくはこち ら


松尾川導水・松尾川用水

四国水問題研究会に拠ると松尾川導水と云うのがあるようだ。なんだ?徳島用水もあるようだがこれは吉野川を使うのかな?
出典:四国地方整 備局

域内利用だそうだ。松尾川導水ってのは松尾川発電所の導水そのものの様で,放水点の井川町近辺で利用されているのかも知れない。徳島用水はそれ(=吉野川 を使う)で合ってる様だ。
出典:国交省資 料

まあ松尾川第二のある井川に全部落とさなくてもまあなんとかなりそうである。

名頃が水を使ってダムに水を貯める為に出力を増強したのに対して松一・松二もそれをやりたくはあるけど,実際には容量の小さな名頃ダム(V=115.0万 m3・26.4+21.2=46.2km2)で有効でも松尾川ダム(V=1260万m3・103.0km2)ではあんま有効ではないかなぁ。。

松尾川流域の面積は103km2だそうだから年間3億トン程度集水出来る感じか。台風もあるので6〜9月辺 りは使い切れてない可能性は確かにありそう。。貯留量比較検討の項を参考にすると 三浦ダム辺りがよく似た環境。最奥部を中心に抜粋し てみた。

最奥部貯水池一覧
ダム名
水系・河川名
目的
有効貯水量
流域
貯水流域比
取水量
取水流域比
([m3/s]/[10km2])
その他
松尾川ダム 吉野川水系松尾川

1260万m3 103.0km2 12.2
6.3m3/s
0.61

三浦ダム 木曽川水系王滝川

6,160万m3
73.4km2 83.9
17.50m3/s
2.38
年間を通じた安定化に寄与
高根第一ダム
木曽川水系益田川
P
3,401.3万m3
159km2
21.4
300.00m3/s

混合揚水
川迫ダム 新宮川水系天ノ川

40万m3
30.6km2
1.31
3,145m3/s
1.05

大迫ダム
紀ノ川水系吉野川 AWP 2,670万m3 114.8km2 23.3
20m3/s 1.74

赤石ダム
大井川水系赤石沢 P
120.0万m3
202km2
5.9
28.0m3/s
1.39

千頭ダム
大井川水系寸又川
P
434.9万m3 132km2 3.3
16.2m3/s
1.27

大津岐ダム
阿賀野川水系只見川
P
56.0万m3
179.6km2 0.31
22.00m3/s
1.22











流石の三浦ダムである。WIkiでも木曽川の流量安定に大いに寄与したと書かれるだけのことはある。宮川の源流部辺りにも欲しい。
我らが松尾川の貯留のパフォーマンスも良い方で,大迫ダムには及ばないがそれ以外では結構行けてる感じ。
とはいえ後,2・3倍は欲しかった所ではある。

しかし使用水量という観 点からは実は過少とも云える。導水に加えて常時出力の比較的にであるが高さも考慮に入れつつ使用水量を倍 増しても良さそうである!単純に倍増させるだけで+42.2MWとなる♪もちろん,当初小島谷方面ぐ らいしかなかった支水路を四国の山中は言い過ぎにしても祖谷谷の方々に張り巡らす迄になったのは水量が不足気味だった(降水量が大きめの貯水量に対してそ こそこ少ない)と云うことかも知れない。

ということで松尾川ダムから取水して,途中で半田川や貞光と絡めつつ,現行松尾川第二(EL71.5m)よりも下流で,この辺(EL45.7m)へ向けて 発電しようとしてみる。標高半分位を念頭に置くと450m程度(舞寺付近)で一旦発電という感じか。

松尾川第三発電所           
認可最大出力:
最大使用水量:6.30m3/s
有効落差:
水車:ペルトン水車
導水路:総延長7.9km
取水:松尾川[松尾川ダム](882.0m) 取水:26箇所
放水:松尾川第四二発電所、井内谷川支流(218m)


[私案]舞寺発電所        
認可最大出力:
最大使用水量:6.30m3/s
有効落差:392.77m
水車:横軸ペルトン水車
取水:松尾川第三発電所、
放水:吉野川(45.7m)

貞光川辺りとどう絡めるかは真面目に検討しないと判らない。ということでこちらで検討してみ た。