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揚水など調整力 蓄電新技術 蓄電池価格低下



なかなか詳しくて興味深い。自然エネルギー財団は孫の財団らしい。

>2013年のAB2514により、CPUC(California Public Utilities Commission、カリフォルニア州公益事業委員会)がカリフォルニアの大手電力会社3社に対して、2020年までに合計132.5万kWの電力貯蔵 能力を調達するように命じた(設置完了は2024年)。各社ごとに送電網・配電網・利用者側の目標値が定められている。2017年2月の時点で3社を合わ せて47.5万kWの調達が完了している。

2013年:1324MWの蓄電能力調達命令
2017年2月:475MWの調達完了(計画期間の30%で調達量の35.9%)
2024年:調達期限

自然エネルギー最前線 in U.S.
米国の電力市場に革新的な変化

https://www.renewable-ei.org/activities/reports/img/pdf/20180704/REI_US_RE_Report_JP_180704.pdf
2018年7月 自然エネルギー財団

エグゼクティブサマリー
 米国では 21 世紀に入ってシェールガス革命が起こったが、早くも次のエネルギー革命が急 速に進んでいる。風力発電と太陽光発電の導入量が全米で拡大して、電力市場に革新的な変化 をもたらし始めた。 実際に 2010 年から 2017 年のあいだに、風力と太陽光を中心とする自然エネルギーの年間発 電量は 2800 億 kWh(キロワット時)以上も増えている。この 7 年間にシェールガスの効果で ガス火力発電もほぼ同じ規模で増加した。あおりを受けたのは石炭火力発電で、6400 億 kWh も減少している。米国の電力市場の規模が約 4 兆 kWh であることを考えれば、変化の大きさ がわかる。

米国全体で見ると自然エネルギーの伸びは著しいが、個々の州では事情が大きく違う。主要
な州のうち、カリフォルニアでは太陽光が先行して、州全体の発電量の 16%を供給する規模に
なっている。風力ではテキサスが先頭を走り、発電量の 15%を占めるまでに拡大した。
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このほかにも中西部の多くの州や、カリフォルニアに隣接するネバダ、あるいはハワイでも
自然エネルギーの導入が活発に進んでいる。一方でフロリダをはじめとする南東部や、ペンシ
ルベニアなど北東部の州では、さほど進展していない。
米国の電力市場は“パッチワーク”のような状態になっている。自然エネルギーの資源量だけ
ではなく、電力システム改革の実施状況や州政府の支援策、送電網の連系状態が州によって異
なり、自然エネルギーの導入に影響を与えている。
自然エネルギーを拡大することは、各地域に多くの便益をもたらす。経済性の点では、米国
各地で風力と太陽光の発電コストが低下して、安価な電力を供給できる状況になった。すでに
風力発電のコストは 4 セント/kWh に、太陽光発電も 5.5 セント/kWh まで下がっている。

風力と太陽光は天候によって出力が変動するため、送電網に大量に取り込むことが課題だと 言われる。しかし米国では風力と太陽光の電力が増大しても、出力抑制の比率は現在のところ 低く、平均して 1~2%程度に収まっている。主な対策として、州を越えた電力取引、ガス火力 と水力発電を活用した供給力の調整、送電網の拡充や蓄電池の活用など、各種の手法を組み合 わせて需給バランスを巧みに調整している。

追加の発電コストがほぼゼロの風力と太陽光が経済性の点で有利になり、石炭火力と原子力
を市場から押し出す状況になってきた。対応に遅れた電力会社や発電事業者は破産を余儀なく
されている。特に大手の Energy Future Holdings、FirstEnergy、GenOn の破産は衝撃的だ。


多くの州では電力会社に対して一定量以上の自然エネルギーの電力を供給するように求める RPS(Renewable Portfolio Standards、自然エネルギー利用割合基準)を定めて導入を加速させ ている。それに加えて、電力会社が自然エネルギーの電力を提供する選択肢を増やしており、 利用者の調達手段は広がってきた。 3 ダイナミックに動く米国の経済では、新たなチャンスをつかもうとする人々を中心に、さま ざまな分野で自然エネルギーの取り組みが進行中だ。将来を見据えた電力会社は自然エネル ギーによる発電設備の規模を急速に拡大している。代表的な例は NextEra Energy と Berkshire Hathaway Energy の 2 社である。風力と太陽光を合わせた発電設備の規模は両社で 2200 万 kW (キロワット)を超えた。

その背景には、電力を利用する企業からの強い働きかけがあることも見逃せない。気候変動 対策だけではなく、コスト面でも自然エネルギーのメリットが明確になり、意欲的な目標を掲 げる企業が相次いでいる。アップル、グーグル、マイクロソフト、スターバックス、ウェルズ ファーゴは自然エネルギーの利用率 100%を達成した。大手の企業が 2013 年以降に契約した自 然エネルギーの電力の規模は合計で 1100 万 kW を超えている。


3.送電網への影響
風力と太陽光が急速に拡大している州では、出力が変動する電力を送電網に大量に取り込む技術が有効に使われている。

米国の送電事業者は出力変動型の自然エネルギーの増加に対応できる能力があることを実証している。

導入量の多い州では年間の発電量のうち風力の比率は15~35%程度、太陽光の比率は10~15%程度に達するが、それでも出力抑制の比率は相対的に低い。

中西部を中心にテキサスの一部もカバーする送電事業者SPP(Southwest Power Pool)が好例だ。
2016年に風力の比率が17%近くまで上昇した状況の中で、出力抑制の比率は2%以下に収まっている(図19)。
このほかにERCOT(主にテキサスをカバー)でも2016年に風力が14%近い比率に達したが、出力抑制は2%以下である。

太陽光においても、全米で最も多く太陽光による電力を受けるCAISO(主にカリフォルニアをカバー)が十分な対応能力を示している。
2017年には太陽光の比率が年間に11%を占めたが、出力抑制の比率は1.3%に収まった(図20)。

太陽光においても、全米で最も多く太陽光による電力を受けるCAISO(主にカリフォルニアをカバー)が十分な対応能力を示している。2017年には太陽光の比率が年間に11%を占めたが、出力抑制の比率は1.3%に収まった(図20)。

図20:米国の送電事業者CAISOによる太陽光発電の出力抑制率と導入率(2015-2017年)注:導入率は他地域からの輸出入分を含む電力消費量に 対する比率、出力抑制率は想定発電量に対する比率。出力抑制は強制的な場合のほかに経済的な理由によるものを含む。分散型の太陽光発電システムを含まな い。
出典:CAISO「Managing Oversupply」(2018年3月26日時点)

とはいえ出力変動型の自然エネルギーを大量に送電網に取り込むためには、簡単な対策では済まない。

以前のERCOTにおける風力発電の状況を見るとわかる。
ERCOTでは2009年に風力の比率が6%以下だったにもかかわらず、他地域との連系能力が低いために、出力抑制の比率が17%に達してしまった(前 ページの図19参照)。その後に「CREZ(Competitive Renewable Energy Zones、自然エネルギー強化ゾーン)」を対象に5800キロメートルに及ぶ送電線の新設・増強を実施したことで、出力抑制が大幅に減少している。 CREZは風力発電の集中地域から大都市の消費地までの送電能力を高めるプロジェクトで、2013年までにほぼ完了した。

太陽光発電ではCAISOの対策が進んでいる。他の地域と連系する能力を十分に生かしながら、ガス火力と水力発電を組み合わせて需給バランスを調整する。
その典型的な例を図21に示す。2つのグラフのうち上は太陽光の比率が高い日の電源構成、下は皆既日食によって太陽光で発電できない時間帯が発生した日の 電源構成である。太陽光で供給する電力の変動に対して、火力・水力発電の出力増減、さらに他の地域から連系線を通じた電力の輸入で対応した。

地域間の連系は風力と太陽光の電力を送電網に取り込むうえで重要な役割を果たしている。
NREL(National Renewable Energy Laboratory、米国立再生可能エネルギー研究所)が数多くの研究を通じて、今後さらに地域間の連系の役割が高まることを分析した。より広い範囲で 電力の需給バランスを調整できれば、出力変動型の自然エネルギーの増加に柔軟かつ簡単に対応できることを明らかにしている。その好例として、米国の西部で 実施しているEIM(Energy Imbalance Market、エネルギー需給調整市場)は注目すべき対策である。
EIMは米国で初めて電力をリアルタイムに取引できる市場でCAISOが運営している。広域の電力需要に対して、コストが最も低い電力をシステムが自動的に探し出す。2014年に取引が始まり、現在も対象地域を拡大中だ(地図10)。

こうした米国内の地域間連系に加えて、国際連系線による電力の輸出入がある。
米国とカナダのあいだには、2016年の時点で約1800万キロワットの容量の国際連系線が稼働中だ。さらに新しい連系線のプロジェクトも進んでいて、約200万キロワットの増加が見込まれる。
代表的なプロジェクトは、米国の北東部マサチューセッツ州とカナダの南東部ケベック州を結ぶ「New England Clean Energy Connect
」である。最大120万キロワットの容量で2つの地域を結ぶ計画だ。カナダの安価な水力発電の電力をより多く米国に供給できる一方、米国内で風力・太陽光発電の電力が増加した場合にはカナダに送って需給調整を図る。
もう1つの重要な対策は電力の貯蔵である。現在のところ米国で最も多く使われている貯蔵方法は揚水発電だ。2017年の時点で2280万kWの容量がある。大きな容量だが、日本の揚水発電(2760万kW)と比べると小さい。

新たな電力貯蔵の方法として、蓄電池が状況を一変させる可能性がある。
蓄電池のコストが劇的に低下して、これまで需給調整に使われてきた火力発電や揚水発電と比べて競争可能な状況になりつつある(図22)。

風力や太陽光と蓄電池を組み合わせて、需給調整力の点でもガス火力と比べてコスト競争力の高いプロジェクトが出てきた。電力会社のXcel Energyが2017年末に実施した入札では、補助金がつく条件ながら、風力+蓄電池が2.1セント/kWh、太陽光+蓄電池が3.6セント/kWh (いずれも入札価格の中間値)という記録的な低さになっている。今後さらに蓄電池のコスト低下が進み、火力発電よりも有効な需給調整手段として使われる可 能性が高まってきた。
電力貯蔵の分野では、カリフォルニア州の取り組みが政策面で最も先行している。過去10年間に、2つの法案(Assembly Bill 2514、同2868)と支援策のSGIP(Self-Generation Incentive Program、自家発電促進プログラム)を実施した。2013年のAB2514により、CPUC(California Public Utilities Commission、カリフォルニア州公益事業委員会)がカリフォルニアの大手電力会社3社に対して、2020年までに合計132.5万kWの電力貯蔵 能力を調達するように命じた(設置完了は2024年)。その3社はPacific Gas and Electric(PG&E)、San Diego Gas and Electric(SDG&E)、Southern CaliforniaEdison(SCE)である。各社ごとに送電網・配電網・利用者側の目標値が定められている。
2017年2月の時点で3社を合わせて47.5万kWの調達が完了している。

さらに2016年に成立したAB2868により、3社は分散型の電力貯蔵設備を最大50万kW追加する対策を求められた。分散型の電力貯蔵設備を配電網に接続するか、利用者のメーターの内側に電力貯蔵設備を設置する必要がある。
自家発電促進プログラムのSGIPにおいても、インセンティブを得るための手段の1つとして電力貯蔵システムの利用が認められている。
2016年末の時点で、メーターの内側に蓄電池を設置するプロジェクトが住宅用・非住宅用を合わせて700以上にのぼっている。合計で約5万kW分がSGIPのインセンティブを受けた。

4.電力市場への影響

風力や太陽光で発電した電力は追加コストがほぼゼロで済む。
需要に応じてコストの低い順に電力を供給していくメリットオーダーのルールでは最初に選ばれる。電力の消費量が伸びない状況では、風力・太陽光発電設備が 新たに運転を開始すると、追加コストが高いガス火力・石炭火力・原子力の電力は減っていく。と同時に電力需要の減少によって市場価格が下がり、火力と原子 力は経済的に二重の影響を受ける。

米国では最近2年間の卸電力の価格が極めて低い水準で推移した(図23)。例えばテキサスを中心とするERCOTでは2~4セント/kWh、カリフォルニ アのCAISOでは2~5.5セント/kWh、中部のMISOでは2.5~4セント/kWh、東部のPJMでは3~4.5セント/kWhの範囲である(月 間平均)。
さらに石炭火力発電に対する厳しい環境規制(特に発電所からの排出量を制限する「Mercury and Air Toxics Standards」の施行)が加わり、わずか7年間で全米の半数以上の石炭火力発電所が廃止に追い込まれた。
2017年10月の時点で262カ所の石炭火力発電所が2010年以降に廃止あるいは廃止決定の状態になった。残っているのは261カ所である。しかも運転中の石炭火力発電所のうち、2017年に収入が経費を上回って利益を稼いだのは半分だけだった。

原子力発電所も同様だ。
2017年の時点で米国には99基の原子力発電所(合計で約1億kW)が稼働しているが、そのうち半数以上が赤字に陥り、合計で29億ドルにのぼる損失を計上した。利益を出せなくなった原子力発電所の廃止が各地で始まっている。
2013年以降に5カ所の原子力発電所で6基が閉鎖された。さらに9カ所の12基は計画よりも早く閉鎖が決まった。

石炭火力と原子力に依存してきた電力会社は厳しい状況に追い込まれている。象徴的な例は、破たんした大手のEnergy Future HoldingsとFirstEnergyの2社である。テキサスで最大の電力会社だったEnergy Future Holdingsは、2014年に破産を宣告した。所有する1500万kWを超える発電設備のうち約3分の2が石炭火力と原子力だったため、コストの安い ガス火力や風力と競争できなくなったことが要因だ。一方のFirstEnergyは2018年に入って破産を宣告したが、その理由は3カ所の原子力発電所 を抱えるグループ内の発電事業会社の業績悪化にあった。

いまや石炭火力と原子力の発電所は補助金に頼らなければ生き残れない状態だ。例えば米国で最大の原子力事業者であるExelonは、15カ所の原子力発電 所のうち4カ所で補助金を受けて運転を続けている。しかし老朽化した石炭火力と原子力に補助金を与えることは適切なのだろうか。
米国全体の発電・燃料事業の雇用者数を見ても、石炭の17万人に対して、太陽光は2倍以上の35万人に拡大している(図24)。原子力は7万人に過ぎず、風力の11万人よりも少ない。

現在のところ石炭火力と原子力が影響を受けているが、ガス火力も安泰ではない。ガス火力に依存してきたNRG Energyの発電事業会社GenOnが2017年に破産した。もはや風力・太陽光発電を中心に新たな戦略を選択する電力会社が増えるのは必然だろう。